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彼女は額のあたりを両手で押さえて俯いている。
体を強張らせ、華奢な肩が上がっていた。
「す、すいませんっ! 勝手に開けたりして……!」
「いえっ、私が、トロいから……大丈夫ですっ。あはは……」
そう言って、吉村さんは顔を赤くしながら笑って後ずさる。
――怒って、ない?
彼女はおずおずと目線を彷徨わせながら、胸元に手をあててこう言った。
「それよりごめんなさい、あのー……私こそ、昨日は変な態度とって」
「いや……俺が、変に突っ込むから」
まさか逆に謝られるとは。
てっきり、昨日はプライバシーに踏み入りすぎて嫌われたかと思った。
それから少しだけ途切れる、お互いの言葉。
吉村さんはすっと顔を上げて俺の目を見据えると、ふわりと頬を緩ませる。
「もう……来てくれないかと思いました」
それは、待ちわびた瞬間が訪れたような、願いが叶ったような、そんな……柔らかな笑顔だった。
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