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それから、玄関で立ち話はなんだということで、いつものように中に通された。
もう見慣れた廊下を歩く。やっぱりどこにも隙の見当たらない完璧な家だ。
しかし、彼女は違う。
相変わらずほっそりとした肩。
こんなに隙だらけの背中。
思い切り掴んでしまえば、折れてしまいそうなくらいに華奢な腕。
本当に無防備で、やっぱりこの人は世間知らずのお嬢様なのか?
急に心配になってここまで走ってきたけど……うん、やっぱり心配だ。
「森さん」
そんなことを考えていた俺を引き戻したのは、前を歩く彼女が突然俺を呼んだ声だった。
こちらを向き直ることなく、だけどもどこか思いつめたような声で。
「昨日、森さんに言われてあれから考えたんです」
俺に言われて?
治らないのか、ってことか。
いつも通される部屋の手前で、吉村さんは立ち止まった。
それから思いきったように振り向くと、少しだけ迷いの色を浮かべた瞳で俺を見上げる。
「私の……ちょっと恥ずかしい話になりますけれど。聞いてくれますか」
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