5.

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  俺はそれに頷いて応えた。 すると彼女は泣きそうな顔をしながら、それでも笑ったんだ。 どうして? それを、今から話してくれるってことだろう。 だから、俺はそれ以上何も言わなかった。 いつもの部屋の、いつも座る椅子に腰を降ろして、いつものように彼女が紅茶を淹れてくれるのを待つ。 またクッキーを焼いたのか、少しだけ甘くて香ばしい匂いが部屋に漂っていた。 「今日はちょっと頂き物のアップルティーです。苦手だったら言って下さいね」 林檎のような甘酸っぱいほのかな香りと一緒に、彼女がトレイを持ってやってくる。 白い指が滑らかに動いて紅茶をカップに注ぐ一連の動作は、相変わらず丁寧で美しかった。 「最初に言っておきますね。ありがとうございました」 「えっと……何が、ですか?」 何に対するお礼だか分からない。 お礼を言われるようなことをした心当たりはないし、むしろ傷つけたのだとばかり。 彼女は俺と目を合わせずにティーカップに揺らぐ紅茶の水面に目を落としながら、ぽつりと呟いた。 「森さんに言われて、気付いたんです。私はただ悲劇のヒロインを気取っているだけだったんだって」  
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