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  「まず、私の平衡感覚がおかしくなったのは一昨年のことです……どうぞ」 「わ、わりと最近……なんですね、あ、どうも」 そうして語り始めながら、彼女は今日のお茶請けであるらしいカットされたシフォンケーキのお皿とフォークを渡してくれた。 これも手作りかな……? 相変わらず完成度が高くて、市販品なのか手作りなのか見分けがつかない。 だけどもこの部屋に漂っていた香りからして、きっと午前にでも焼いたものだろう。 「笑われてしまうかもしれないんですけれど、私には……大好きだった男の人がいました」 「いいじゃないですか、笑いませんよ?」 寧ろどこに笑う要素が? あんまり付いていけていない俺を置いて、彼女はちょっとだけ自嘲するように笑う。 それから、何事かを言いかけては口を噤んで……を繰り返した。 言えないのかもしれない。 「あの、言いづらかったら無理に話さなくても」 「いえ……その人。最初は優しかったんですけど、段々暴力を振るってくるようになったんです」 「っ!? 暴力っ!?」 思わず勢いよくテーブルに手をついて立ちあがる俺。 それに僅かに怯えるように、彼女が身を硬くしたのを見て……すぐに冷静さを取り戻した。 「すい、ません。驚いてしまって」 男からそんな……暴力を受けていた女性に対してご法度すぎるリアクションしちまったな…… 自責の念にかられながらも、俺はゆっくりとまた元のように座った。  
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