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  俯いたままティーカップを両手で包むように持って、それから自嘲するようにこう続ける。 「馬鹿みたい、ですよね。それでも好きだったんです。嫌いに、なれなかったんです」 カップを包む指に、力が籠ったのがわかった。 ぎゅうっと握りしめたそれは、果たしてどんな感情によるものなのか。 「どんなに酷い事されても、あとから……ごめんねって謝って、抱きしめてくれる彼が、どうしても……」 DVとかでよく聞く話だ。 暴力を振るう男は、必ずその後に人が変わったように優しくなる。 そのせいで、女性は『変わってくれるかもしれない』という望みを捨てきれない、って。 「それで、二年前に……すごく激しくやられてしまったんです。その時に、三半規管が」 「ってことは、その男の暴力のせいで……?」 なんてことだ、それじゃ彼女は被害者なんじゃないか。 男の暴力のせいでこんな体になって、外にも出られずに…… 俺がそいつを知っていたなら、ぶん殴ってやりたいと思った。 別に彼女のためでもなんでもない。 俺が、俺の意思で殴りたいから。  
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