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「それで、っ……私は……あんな男とは別れろ、って。引き離されました」
今まで自嘲交じりだった彼女の声に涙が混ざる。
辛かったんだろう。
どんなに酷い男でも、吉村さんにとっては最愛の彼……だったんだから。
納得いかなくても、理解できなくても、それは変えようのない事実。
「森さんに聞かれたように、治らない訳じゃないんです。手術すれば治るかもしれないんです。でも、『治さなかった』」
遂に彼女は嗚咽を漏らしながら、両手で顔を覆った。
対面に座る彼女の肩を抱く事なんてできない。
その資格は、きっと俺には無い。
彼女にとって、その資格を渡せるのは……悔しい事にその暴力男だけなんだろうから。
「いつまでも……っ、彼に……しがみついて。『彼に傷つけられた私』で、居たかった」
震える肩は本当に華奢で、壊れそうなくらい。
こんな女性にどうして暴力を振るえるんだろうか?
見たことも無いそいつに対する怒りが、ふつふつと沸き上がるのを感じた。
「救急車で運ばれたっきり、彼とは会ってないし、彼がどう言っていたかもどう感じていたかも知らないんです……二年も、待ったけれど」
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