Ⅰ       

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優太が宿題を終わらせてからどのくらい経っただろうか。 ガチャと鍵の開く音が聞こえた。 時計に目をやると短い針が9を指している。 「ママだ」 急いで机の上のノートを片付けて玄関に向かう。 「ママ、おかえりなさい」 優太がニコニコと笑ってママの荷物を持ってあげようと黒い鞄に手を伸ばそうとしたとき 「触るんじゃないわよ! そこどきなさい!」 ママが鞄を抱きしめ片手で優太の頬を思いっきり叩いた。 お酒の臭いがツンッと鼻につく。 ママはそのままどんどん奥に入って行った。 優太は頬を押さえて泣きながらママのあとについて行く。 「っめんなさい。ごめんなさい」 ママは優太を無視して冷蔵庫からビールを取り出してゴクゴクと一気に飲んだ。 近所のコンビニの袋から弁当とおにぎり一個を取り出して弁当を食べ始める間も優太は半べそをかいている。 「……」 優太は涙を拭いて無造作に目の前に置かれた梅おにぎりを食べ始めた。 少しずつ大切に味わうがすぐになくなってしまう。 いくら子供といってもおにぎり一個では足りない。それを知ってかママは優太を見ようともせず美味しそうにハンバーグ弁当をほおばっている。 ぐるる~と優太のお腹が鳴ったのも気にしない。空腹に耐えきれず弁当を覗きこんだ。 「ママ…それちょっとちょうだい?」 「何よ、あんた働いてもないのに生意気言わないで」 「でも…お腹空いたんだもん…」 消え入りそうな優太の反論を聞いた途端ママの目つきが変わった。 ダンッと弁当を置いて立ち上がると優太の脇腹を思いっきり蹴った。 容赦ない蹴りに小さい優太の体が弾んで壁に当たる。 痛さと怖さで大泣きしている優太に次から次へと拳が降り下ろされた。 「私だって必死に働いてるじゃない!何よ!みんなあたしのことバカにしてッ…」 「ごめんなさい!もうわがまま言わないから!ごめんなさい!」 ハァハァと息を荒げてママが自分の部屋に引き上げていったときには優太の体には幾つもの痛々しい痣ができていた。 今日だけのものではない。優太が物心ついたときからずっと優太は殴られ続けていた。 それでも優太は『自分が悪い子だから怒られるんだ』と思っている。 ママの部屋の前でおやすみなさいと声をかけてから部屋の隅っこのいつもの場所に薄い毛布を引っ張ってうずくまって寝る。 布団なんてない。
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