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Ⅲ
浅村があまり人の来ない体育倉庫の脇に昶を連れていき腰を下ろした。
「どうした?」
昶は何か迷ってるように視線が落ち着かない。
しかしすぐにバッと顔をあげた。
「あのっ!痣です!優太なんです!虐待がッ!」
緊張してるのか言葉がめちゃめちゃだが浅村の頭に一つの単語が響いた。
「ちょと待て。虐待ってどういうことだ?」
「さっき優太が転んだときに腕にいっぱい痣があるのを見たんだ」
確かに優太は普通の子に比べて痣がたくさんあった。といっても服を着た状態で見える程度の範囲だ。
この年頃なら戦いごっこやおいかけっことかで転んで頻繁に痣をつくる児童が多かったからあまり気にしていなかった。
「優太に言ったのか?」
浅村の問いかけに昶はこくんと頷いた。
「で、なんて?」
「優太が悪い子だからママに怒られただけだって。どうしよう…。優太が死んじゃう…」
昶にとっては虐待=死なのだ。
ガクガクと肩が震えている。
「大丈夫だ。落ちつけ。…俺が守るから」
浅村がポンポンと昶の頭を撫でた。
「このことは他の誰にも言っちゃ駄目だぞ。ほら、もう行きな。カレーがなくなるぞ!」
昶がゴシゴシと涙を拭って教室に戻っていった。
「虐待…か…」
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