Date1 水族館

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魚に興味なんてない、亀はよく知らない、ペンギンはかわいいけどすぐに飽きる。 だから、ここにいるワケはただ一つ――。 「これ見てすごいかわいい!」 俺の横にいる(たちばな)海幸(みゆ)が歓声を上げた。 海幸の視線の先には、テレビでよく見る小型の熱帯魚がせわしく動いている。 「ね、かわいいよね」 それよりも水槽にくっつくくらい顔を寄せている海幸の方がかわいいよ。 薄暗闇の中でも輝くクリッとした目。その中には水色とコイツのカラフルな色が映って見えるんだろうか。 海幸は不意にこっちを見た。慌てて視線を外す。何考えてるか、当てられそうだったから。 「次あっち行こっ」 にっこりと女の子らしい笑顔を浮かべて、海幸は俺の手を引っ張っていった。 大きな水しぶきと共にイルカが大ジャンプした。若干の水を被ったせいか、海幸は楽しそうにはしゃいでいる。 太陽の光できらきらと輝く水滴。眩しそうに目を細めてそれを見る海幸。端から見てるこっちが眩しい。 「何してるの?こっちおいでよ!」 イルカショーに負けないくらいの大きな声で呼ばれたから、一つ頷いて海幸の隣へ。 「ねぇ、イルカって頭いいんでしょ」 そうだよ――っと答えたつもりだったけど、聞こえなかったらしい。首を傾げてキラキラ光る眼で俺の顔を覗き込む。 イルカのエサやりのタイミングでもう一度トライするが、周りの音にかき消されてまたしても海幸まで到達しなかったようだ。 ちょっと考え込んで、海幸は自分の耳を指差した。耳元で喋ってというサインだろうか。 しかし、そんな、大胆な。耳元なんて急接近過ぎだった。まだ初めて手を繋いだばかりだというのに。そんなことを一瞬の時間の中で考えていたら、俺が行動を起こす前に、耳の方から近付いてきた。 近い。もう一歩でも踏み込めば、唇が耳たぶに触れてしまうのではないだろうか。 鼓動の高鳴りを感じながら口を思い切って開くと、「くすぐったいよっ」と、海幸が笑い出してしまった。 そして、笑い出すとともに離れてしまった耳。残念。もう少しだったのに。 イルカの最後の特大ジャンプで、全身に水を浴びる。密かに水しぶきを逃れていた海幸がくるりと顔を向ける。してやったりというような悪戯っぽい笑顔がそこにあった。
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