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いよいよ今日の結末だ。今回の目的は、魚を見ることでも、亀が動き出すのを待つことでも、ペンギンを愛でるわけでもない。そう、今日の目的は――。
「海幸」
駐車場に停めた車内から名残惜しそうに水族館入口のオブジェを眺める海幸。夕暮れ時の赤い太陽に照らされたその横顔は、少しいつもよりも大人びて見える。
「海幸」
疲れたのか、生返事が返ってきた。そんな海幸もかわいい。
「今日は楽しかった?」
答える代わりに満面の笑み。いい雰囲気だった。
「海幸、さっきのイルカのとき、実は俺の声聞こえていただろ」
悪戯っぽい笑顔は、わざと聞こえていない振りをしていた証拠だ。海幸はバレたか、というように曖昧に微笑んで頷いた。
「少しお仕置きをしないとな」
お仕置き? っとまたわざとらしく上目遣いで俺を見る海幸。透き通った綺麗な瞳は、鏡のように俺の姿を映している。
「海幸」
ここが大切だ。静かに肩を抱き寄せる。海幸も雰囲気を感じ取ったのか眼を閉じた。
「海幸。目を開けたままがいい」
予想外の言葉に驚き、目を開ける海幸。その瞳に映る俺と、沈みゆく太陽のように赤いマイナスドライバー。
透き通るようなキレイな瞳が、暗闇でも輝くクリッとした瞳が、燃え盛る太陽のように赤く染まった。
「ごめん、海幸。耳たぶもよかったけど、今日は瞳がいいな」
グリッ、グリッ、グリッ。
浄水器で不純なものを取り除いた水で眼球を洗う。こびりついた汚れや穢れをこそぎ落とすように、丁寧に。
「次はどこがいいかな?」
ぼんやりと、身体のどこか奥の方で、そんな独り言を言っている自分を感じていた。
チョロチョロと水の流れる音が聞こえる。
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