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山登りは疲れる。キャンプファイヤーは馬鹿らしい。バーベキューはおいしいけど、すぐ飽きる。
だから、ここにいるワケはただ一つ――。
「っ痛い!」
という声が聞こえたから飛んでいくと、案の定、とんかちで軽く指を叩いてしまったらしい。
慌てて指を見るが、内出血もなく大丈夫なようだった。
涙目の海幸の頭をさすってあげる。痛みはすぐに消えたみたいで、猫みたいに気持ちよさそうな顔をしている。あごでもなでたらにゃーんとでも鳴いてくれそうだった。
「ねぇ、大丈夫かな?」
細長い指をおそるおそるもう片方の指で触りながら海幸は聞いてきた。
俺は優しく頷くと、海幸を立たせ、地面に放り投げたとんかちを拾い、テントの設営を再開した。その様子を「さっすが男の子だね」と感心しながら眺めていた海幸は、することがなくなったのか、次の予定である料理づくりを始めるために、共有炊事場へと水を汲みに行った。
「ふんふーん、ふんふん」
鼻歌を歌うほど海幸は上機嫌なようだった。テキパキとバーベキューの材料となる野菜や肉、魚などを切り分け、同時に今日の夜用のカレールーの一部をベースにした「海幸特製スープ」を作っている。
ノースリーブ姿が新鮮だ。淡い水色から伸びる細腕は、白く透き通って綺麗だった。水色と白から空を連想する。
材料を全て切り終えた海幸は、お手製スープをゆっくりとかき混ぜながら、俺の方を見る。
「火、ついたー?」
返事をする代わりに、体を移動させる。
「あっ、すごい!もうついたんだ」
嬉しそうな笑顔。
「待ってね、もう少しでできるから」
こっちまでつられてしまうような笑顔だった。
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