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今日の目的はいつものデートとは違う。
会話を楽しむためでも、ジャンクフードを食べることでも、互いの秘密を打ち明けることでもない。
今日、俺がしなければいけないことは――。
俺は、海幸が来るより30分早く待ち合わせの浦見ヶ崎高校の校門前で待っていた。
海幸は俺の二歳年下でまだ高校生だった。海幸のスケジュールだと、平日のこの時間帯は、まだ高校のオーケストラ部で部活中のはず。ずいぶん懐かしくなった制服のズボンに手を入れ、携帯を取り出す。
ワンタッチで画面を開くと、自動的に新着メール画面へと切り替わる。奴からのメールだった。
「やあ。ようやくこのときがやってきたな。手順はきっちり覚えてきたかい?」
携帯を持つ手が震えているのがわかる。それでも、メールを返信しようと文字ボタンに指を伸ばすが、それより先に次のメールが送られてきた。
「返信の必要はないよ。君の考えは僕に筒抜けだからね」
一拍おいてまたメール。
「さて、心配しなくていいよ。今回は初回サービスということで、次の展開を手取り足取り教えてあげるよ。まあ、もちろんメールのみなんだけどね」
そういうことじゃない。俺は……。その先は言葉にならなかった。というより言葉にしてはいけなかった。
「恐れる必要はないさ。君が契約を守れば、ちゃんと彼女は還ってくるよ。それとも放っておくのかい? 君のせいでこうなって――」
文章を全て読む前に、携帯を閉じる。携帯が命が宿っているかのように振動した。
「君はやるしかないんだ。そうだろう?」
肺を最大限にまで膨らせるぐらい息を吸い込み、勢いよく全て吐き出す。そうだ。やるしかないんだ。
「よし。まずは条件その一。何でもいいから水に関する場所へ連れていくこと」
わかってるよ。頭にこびりつくくらい、何度も何度も暗記したんだ。
「必死だねぇ。おっと、彼女が来たみたいだよ」
携帯を素早くポケットにしまうと、俺は校舎から駆け寄ってくる海幸に手を振った。
「ごめん、待った?」
気にしてないと、笑顔で返す。ぎこちなく映っていないといいけれど。
「そんなこと言って~。ちょっと怒ってるでしょ。ほら、表情堅いよ」
そう言うと、海幸は、俺の頬をいじくり回した。楽しそうだ。本当に楽しそうだが。海幸の鼻をつまむことで、その動きを静止させる。
「い、イタ」
すぐに指を離す。
「も~。よし、帰ろ」
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