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ぐるぐると螺旋が渦を巻く
真夏の日差しは容赦なく僕に降りかかる
この土地は涼しいだなんて言うけれど、そんなもの違う場所から来るから言えることだ
ここは腐っても凍てつく最果ての地
欠方もない希望と、遠慮された絶望しかない、続かない街
「ー―いきなり呼び出して、何の用なのかな」
本州より短い夏休みが始まって、一日目
ぼくは目前の少女、小林紫苑〔コバヤシシオン〕に呼び出されていた
「ん?
ああ、やっほー、いーちゃん」
「ぼく以外に誰がいるのかな、小林さん。
ていうか、いーちゃんって呼ぶのやめてくれない?」
ぼくの名前を一文字も被っていないその呼び名は、彼女が愛読する小説の主人公の愛称らしい
「やぁだ。
だっていーちゃんはいーちゃんだし~。
それに君は自分の名前を呼ばれたく無いんでしょ?
だから小林さんに名前を教えてくれない」
“彼”は作中で名前が明かしておらず、もっぱら呼ばれるのは頭文字が“い”のあだ名だけ
だから、いーちゃん
小林さんに付けられてきたあだ名は星の数ほどあるけれど、目下彼女に呼ばれるあだ名はそれだけだ
「で?
結局何のようなのさ」
「いや、いーちゃんにちょっと聞きたいことがあってさ」
だからわざわざ来てもらったの、と、彼女は無邪気を装った笑みをつくる
この笑顔の彼女はとんでもないことをしでかす
そこに、ぼくを巻き込んで
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