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「で、実際君はぼくに何をしてほしいの?
君の望みとかさ。
言うだけ言ってみてくれないかな」
「私の望み?」
ぼくの言葉に彼女はようやっと反応らしい反応をした
読み耽っていたらしい分厚い装丁の本から目を逸らし、彼女は右目にかかる前髪をかき揚げて、この日初めてぼくのほうを向く
「何か、言っているのかな。
何を……言っているのかなァ」
どこかに置き忘れられたゴミ箱のような目で、ぼくは見上げられた
彼女は笑んでいる
しかし、彼女の抱いているその感情を変換し、『喜び』と名付けたなら
もし名付けてしまったとするならば、彼女の世界は文字通りごみ溜めになるのだろう
「小林さんは、それが知りたいからここにいるんだよ?」
戯〔たわむ〕れる幼子のように無邪気に
誑〔たぶら〕かす妖女のごとく艶やかに
彼女は確かに微笑んでいた
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