春休み、最後の一日

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 冬がすっかり身を潜めつつある四月初頭。街路に沿って植えられている桜並木も満開から幾分が過ぎていた。    靴に踏まれ車に轢かれて茶色く色を濁した花弁を傍目に、俺は日が沈みきった川沿いの生活道路を歩いていた。俺の隣には悪友が一人、自転車を押しながら歩いている。   「なあ、おれたち明日から高校生なんだぜ。信じられるか?」    その悪友である幡野総司(はたのそうじ)が話しかけてくる。ほとんど呟きのような響きで発された言葉に少し考える。    俺自身、春休み中に何度もその問いを自分にしたのだが、しっくりくる答えは出ていない。そもそも自問自答ではなく確認であるのだけれどな。   「んー。少なくとも青春してる姿は想像できないな。お前とかキノは兎も角、俺は阿野とかの非モテ組だもの。あーあー、お前らの武勇伝とか聞きたくねえな」   「お前らが言うほどモテてないっつうの。非モテとか言うならその顔をおれに寄越せよ」   「やめてくれ、身体のパーツで顔はまだマシなんだ」    俺は女の子がやるような――実際にやってるところは見たことがないが――仕種で顔を隠す。ここで総司は口角を釣り上げたらしく、僅かに吐息が漏れるのが聞こえた。     「そうかそうか。では息子さんは引きこもりがちなのだね」   「そうなんです。自分の殻、じゃないや。皮から出てこなくて。……夜は人を開放的にするな。青春トークが下ネタにここまで早変わりするとは」    俺は自嘲気味に呟く。こんなんだから自分の周囲には男子しか集まらないのだろう。呆れた。    とは言え、隣にいる親友は女子との交友も少なくない。同じぐらい下ネタ好きなのに。
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