序章:飢望パラドックス

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私は幸せ者だ。 父は私が生まれてすぐに死んでしまったが、働き者の母がいて、確かな愛情を受けて育った。 もちろん、女の細腕一本で支える家庭は、決して裕福とは言えなかったが、四年制の国立大にも通わせてくれている。 十分だ。 十分すぎるくらいに幸せだ。 それなのに…… 分かっているのに、 息が詰まる。 矛盾している。 二十歳の夏。 私は上手に呼吸の出来ない日々を送っていた。 十九歳から二十歳になった瞬間、昨日まで十九歳だった自分がひどく遠い存在に感じて怖かった。 二十一歳の自分も全く想像ができない。 変な歳だ。二十歳って。 挟まれたどちらの歳とも 大きく隔たりがある気がする。 だから焦るのだろうか。
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