揺れる

6/8
前へ
/46ページ
次へ
・ iPodがニルヴァーナを流す。 カート・コヴァーンの声と、ノイジーなギターが心地よい。 数学の授業なんて聞く気にはならない。 胃が痛くなるだけだ。 教師の林は、気の抜けた声で、草臥れたスラックスに手を突っ込んだまま、だらだらと授業を続ける。 ヴォリュームを小さくしているから、嫌なのに声が入ってくる。不快だ。 サイレントモードにした携帯が光る。 画面を見たら、田畑からだ。 田畑を見る。 何食わぬ顔で前を見ている。 ますます、あの真面目っ子が分からなくなってきた。 澪に話したくても、ずっと寝ている。 いつまで寝るんだこの女。 「高埜、この問題解け」 呼ばれた。もちろん、聞いていなかった。 「分かりません」 即答する。 林もいい加減、私とのこのやりとりに飽きたらしい。 今日は、そうかと言わずに「少しは考えろ。前出てやってみろ」と言う。 めんどくさい。 仕方ないので立ち上がって、前に出る。 チョークを持って、某商業的アトラクションランドのマスコットキャラ、商業主義のドブネズミのイラストを書いて、隣に問題の答えを書いて、席に戻る。 ついでに澪の頭を軽く小突く。 「起きろ」 小さい声で呟いた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加