小林

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それは春と夏の狭間の季節。 小林は首筋に汗を浮かべながら電車に揺られていた。二両しかない電車の中には数える程しか人影が見当たらない。さらに言うなら制服姿は小林以外にはいなかった。 窓から望む景色は、夏も近いと言うのに広がる金色の田畑と吐き気を催すような深い緑の山々しかない。代わり映えのしない景色だったが、それは飽きの来ない不思議なものであった。 軽くため息をつく。そろそろふらりと乗り込んで一時間は経つのだが一向に終着駅には着かない。景色もこれと言って変わらないので、後どれくらいなのかも見当もつかない。座席に座ったまま背伸びをした。ペキパキと背中がなく。合わせるように電車もガタゴトと揺れた。 そもそも小林は終着駅を知らなかった。 ただ意味もなく乗り込んだ電車に目的などなく、ただ終着駅を待つだけであった。 意味も目的もないものに何があるのかと問われても答えは返せないだろう。 強いて返すならただ揺られてるだけだといった所か。 答えになってないなと鼻で笑いながら小林は静かに目を瞑る。 聞こえるのは車輪の足音と微かな風の歌。 目を瞑ればそれだけだ。 そして電車は知らない終着駅へと走っていく。
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