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「あ、…幸。」
足許にパタッと落ちたのを見て、拾うのに少し躊躇する。
なにがそうさせるのかは分からないが、
少し気まずい気持ちでそれをとりあげる。
「おかえり、藤村」
「幸。 ただいま」
このごろの幸はもう、
僕の意思には関係なく姿を現すようになっていた。
つまり今、幸を目の前にして、
こんな感情があるのが本音ということだ。
けれど幸が愛しくないわけではない。
寧ろこれまでのまま、
好きなままである。
一人歩きをしだしてしまったけれど、
僕自身の片割れのようなものなのだから。
「俺をおいて、何処行ってたの?」
ふわふわの黒髪の向こうの瞳が僕を捕らえる。
その漆黒の闇はまるで
人間のものではないみたいだ。
幸が僕の肩をつかむ。
それは確かな人間の手ごたえで、
僕は寒気がする。
「おいて・・・って、忘れてたんだよ」
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