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某尋常小学校の正門に向かって一人の少年が歩いていた。少年といっても身長は大人ほどもあり、がっちりした体で、この当時の少年として坊主頭であるから、鋭い目まで見ると、小学生(中学生ぐらい)にして、既にその筋の貫禄を備えていた。
少年の向かい側からは、ガラの悪い学ランにわざと踏み潰した学帽を被った中学生の3人がやってきて道の真ん中であった。
真ん中のリーダー格の男が怒鳴った。
「こらガキ道をあけろ」
「せまい道路を並んで歩くバカにガキ扱いされるいわれはない、まずお前らが通りやすくしろ」
「なんだとこのやろう」
リーダーは上から睨みつけた。
少年は下から睨み返して言った。
「聞こえねえな」
リーダーが殴り掛けた時手下が何か気がつき、みみもとで囁いた。
途端にリーダーの顔色が変わった。
「がっガキを殴っても自慢にならねえ、おい行くぞ」
3人は少年の横を通り抜けると、途端に走り去った。
「ちぇつまんねえ」
少年は両手を頭の後ろでくみ小石を蹴飛ばした。
少年は再び道のど真ん中を歩きだした、しかし突然畦の方に道をおりた。
その向こうから腰の曲がった老婆が杖をつきながら歩いて来た。
「おばあちゃん足元に気をつけてね」
少年の声に老婆が申し訳なさそうに答えた。
「こんなババに、いつも優しくしてくれて、すいませんお坊ちゃん」
「いや~そんな事ないよ」
少年は、初めて子供らしい表情で照れた。
老婆が通り過ぎると再び少年は道のど真ん中を歩き始めた。
少年が正門に近づくと一人の少年が地面に将棋板を書いて一人将棋をやっていた。
少年は駈けよって声を掛けた。
「ピンすけ、お前授業は」
「あっ源兄貴それが」
源兄貴と呼ばれた少年は学校敷地内を見て驚いた
校舎の壁や廊下の木塀にビラがここかしことはってあったのだ。
ビラには『アカ(共産主義者)は出ていけ』
源兄貴は額に手をあて言った。
「またかよ」
源兄貴は木造平屋校舎の窓から教室に顔を突っ込んだ。
ガラーンとした人っこ一人いない教室の黒板に赤いチョークで『アカは去れ』
源兄貴は首を引っ込めると校舎の壁のビラを破る
「先公どもは注意しないのか?」
「それどころかバケツに糊を作って置いてく始末で」
「先生は?」
ピンすけは川の方を指さした。
「また、鮒や鯉を相手に授業してんのか?」
「最近鰻もいるそうです」
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