日記

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日記

分かってるんです。 総司さんがもう隣にいないことは、ちゃんと分かってるんです。 ただ、風が吹く度、物音がする度に家の中 貴方を探してしまうんです。 《たとえいつか 離れる時がきても 僕の心は永遠に君のものだ》 いつも思い返す言葉…。 「総司さん…」 ぽつりと彼の名を呼んだ。 空は曇って、今にも雨が降りそうな天気であった。 夏の風は肌に張り付いてくるようだ。 ヒラヒラと花びらが窓から舞い降りてきた。 私は何故か花びらを目で追っていた。 総司さんの部屋に入った花びらは、本棚に立て掛けられていた ある1冊の本の上に降りた。 何も書かれていない背表紙だったので私は 不思議に思い その本をゆっくり開いた。 「これ…総司さんの日記?」 日記をつけてたんだ と私はクスッと笑ってページをめくった。 その日記は療養が始まってから書きはじめたものだった。 【今日は結構体調が良かったから千鶴と買い物に行った。 すぐに道に迷うあの子を見るのは飽きないなぁ。】 「ふふ…飽きないなって、総司さんらしい日記」 【桜の花がとても綺麗に咲いたから今日は花見をした。 ヒラヒラと舞う桜の花びら… 僕はいつ散るのだろう。 あと何回千鶴と桜を見ることができるだろうか。】 ズキンッと胸が痛くなった。 総司さんは桜を見ながら 自分を重ねていたんだ…。 私はページをめくっていき、最後のページに達した。 【千鶴へ】 これは…私への…メッセージ? 最後のページには私へのメッセージが書かれていた。 【君がこれを読んでいるということは 僕は もう君の隣にいないんだね。】 私は胸の奥が熱くなった。 でも不思議と涙は流れなかった。 【千鶴、君はいつも笑っていたね。 その笑顔に僕はどれだけ救われたか きっと君は知らないだろう。 だからね 君には いつも笑顔でいてほしかったんだ。 でも、泣いてほしかった。 矛盾してるって? 僕もそう思う。 でも僕の前では泣いてほしかった。 君が安心して泣ける場所を作ってあげたかった。 それは もう 叶わない願いになってるのかな…。】image=366877606.jpg
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