プロローグ

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彼は懸命に何かを書いていた。それは小説らしい。そういえば、一度だけ彼の作品を読んだ事があるのを思い出した。 記憶が無く純粋無垢な少年が、行き倒れていた記憶喪失の女性を拾い、共に記憶を蘇らせてゆくストーリーだった。 感想を言った彼女に、彼は照れ臭そうに笑顔で「ありがとう」と言ってくれたのを思い出した。 彼女は彼の笑顔が大好きだった。また彼の姿が浮かんできて、これが最後だと直感した。 初めて彼に出会った瞬間、彼の照れた笑顔、驚いた表情、可愛い泣き顔、戸惑った時に慌てて冷静を装う白々しいそぶり、甘えるときの無邪気で悪戯っ子な笑顔、どれもが愛おしかった。
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