平凡な日常の第1話

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「ツナく~ん♪」 「やっぱり先輩でしたか………」 津波が予想した通り、そこにはカンナがいた。 ピョンピョン跳ねながら手を振っている。 「お昼ごはん食べに行こうよ、ボクと。久しぶりに暇なんだ~」 カンナは昼休みは基本的に何かをしている。 その何かというのは津波ですら知らないのだが、とにかく昼休みにカンナが暇というのは珍しいのだ。 と言っても月一くらいの珍しさなのだが。 津波としてはカンナを放っておけないし、こんな日くらいは付き合ってあげることにしている。 「前々から気になってるんですが、昼休みいつも何してるんですか?」 「ないしょだよ~」 津波は少しだけ苦笑するのだった。 津波とカンナは二人、屋上に来ていた。 普段は弁当組で賑わう場所だが、夏休み間近とあって人がほとんどいない。 いたとしても日陰で固まっているだけだった。 「それで、どこで食べます?」 「そんなのいつもの所に決まってるじゃない」 カンナは大きな袋を抱えて上機嫌に笑った。 それの中身は津波も知っている。 「ははは……誰かに見つかったら誤解される所ですね………」 誤解された様子を想像すると、ぞっとした。 「やっぱりここはちょうどいいねぇ♪」 津波とカンナは貯水タンクと壁の隙間にシートを敷いて座っていた。 人一人がやっと座れるような狭さの場所に、津波が足を前に伸ばして座り、その膝の上にちょこんとカンナが座る形だ。 見た目はバカップルにしか見えない。 「やっぱり……恥ずかしいですね、普通に他の人に混じって食べません?」 と津波は少しばかり抗議するのだが、 「人が多いところ、嫌なんだもん」 とすぐに断られる。 「それより早く食べよ♪今日はね今日はね、ハンバーグ弁当なんだよ~」 カンナはずっと大事そうに抱えていた袋を開ける。 そこから可愛らしい小さな弁当箱と、少し大きめでそれでいて同じく可愛いプリントがしてある弁当箱が出てきた。 「先輩の弁当、久しぶりですね」 「一生懸命に作ったからね、ちゃんと味わって食べて」 カンナが大きめ弁当と箸を笑顔で渡す。 津波はそれを受け取ると、上機嫌でフタを開けた。
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