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ここは、街のみんなが良く知っているけど、それでいてみんな知らない秘密の場所。
この場所を知っているのは街の人全員であって、少女一人だけでもある。
薄暗く、かび臭い狭い空間で今日もまた少女が秘密の特訓をしていた。
「えっと……ぐりーんぴーす……って枝豆のことだよね」
独り言と古ぼけた本。
少女は知らない人から見れば、とてもおかしな格好だった。
ぶかぶかのカラスのように真っ黒な帽子に、同じく真っ黒なマント。
背は小学生みたいだからか、ハロウィンの仮装だと言われたらきっと信じてしまうだろう。
でも、少女は真面目で真剣だった。
だって、今日はハロウィンでもなんでもなかったから。
少女は魔法使い見習い。
人知れず人間界で魔法の修行中。
「わ、お猿さんの爪だって……持ってないな……ボクの爪で大丈夫かな?」
ポンッと可愛い音とともに少女の手に爪切りが現れる。
それで自らの爪を切り、グツグツと煮たっている怪しげな鍋に入れた。
「んと、これで……できたっ!」
満面の笑みで鍋を覗き込む少女。
少しだけなら魔法使いに見えなくもないかもしれない。
「あとは……じゃじゃん♪」
謎の効果音を口ずさみヒラリとはためかせたマントの中から一匹の白い猫が現れた。
「猫ちゃん、狭かったねぇ、ごみんごみん」
猫を抱き上げる少女。
猫のほうは無理矢理連れてこられたせいか、怯えていた。
「震えてる……寒いの?夏なのに」
それに気づかない少女はなんと罪深いのだろうか。
「これはね、動物を人間に変える薬なんだよ♪お前はこれから人間として生きていくのだ!」
まだグツグツしている鍋の上に猫を持った手を移動させる。
身の危険を感じた猫は精一杯暴れていた。
「おぉ~嬉しいのか、そうかそうか」
猫がいくら暴れても少女の腕がほどける事はなかった。
少女の天使のようで悪魔のような笑みが猫を恐怖で染めた。
「それじゃ、ぽちゃんと……」
少女が手を離す。
重力に引っ張られて鍋に吸い込まれていく猫。
悲鳴ともとれる鳴き声が、秘密の場所に響き渡った。
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