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登校時、通学路にはそれぞれ同じ制服を着た男女が談笑しながら同じ方向へ向かっていた。
開始時間には少し早いせいで、ピーク時に比べると少しだけ少なく見える。
そんな中、見た目で古いと分かるような駄菓子屋の前に治の姿があった。
ここは、小学生の頃からの三人の集合場所。
いつも治たちはここから一緒に学校へ行くのだ。
「お?おはよー、ツナ。今日は遅かったな」
さっそく視界に入った津波に話しかける。
しかし、すぐに驚きの声をあげることになった。
「ど、どうした………。なんか絵に書いたようなタラコ唇になってるぞ……」
「………」
無言でくいっと親指を指す津波。
その先には鼻歌を歌う上機嫌な瑞希の姿があった。
「昨日の俺もこんなだったのか……無様だな」
すぐに治は納得し苦笑した。
「しっかし、瑞希もやることがえげつないな……」
合流した三人は学校へ向かって歩き出す。
いつもと変わらない登校風景だった。
治は会話の火付け役。
瑞希がそれに答えるのもいつものことだった。
「いやねぇ、津波の寝顔ってとっても可愛いんだよ~。でねでね、ついついイタズラしたくなるってワケ♪」
瑞希は上機嫌が二乗三乗と急上昇していた。
津波から見たら嫌な光景だ。
「くっそ……覚えとけよ……必ず復讐したるからな」
津波は元来、口数が少ないほうだ。
それでいて、思った事は簡単に口にしてしまうため、誤解されやすい。
瑞希曰く、損な性格。
「へっへん、楽しみにしてるよん♪」
しかし、津波という人間は知っている人からすれば彼は立派で、尊敬にすら値する。
なぜか、それは津波が人一倍、他の生き物の感情を読むことに長けているからだ。
彼はそういった才能の持ち主なのだ。
だから、本当に困っている人が分かる。
どうすれば、その人を助けられるか考えられる。
一言で言えば人一倍優しいで済むが、それは彼の才能に起因していると言えばずいぶん立派だ。
つまり言い換えるなら、“津波には人を助ける才能がある”ということ。
それを知っている人間は数えるほどしかいないのが残念なのだが……。
「まぁ、ツナの復讐なんて知れてるけどな」
津波をよく知る人物なら必ずこう言うだろう。
それは彼らの友情の印であり、信頼の証だった。
津波としては不本意だったが…。
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