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(5) 入場券
高見沢が、到着した所は、死に番号、すなわち42階。
日本の高層ビルでは、縁起を担ぎ、永久欠番が一般的。
そんな42階が、このビルには存在していたのである。
「遂にゲットしたぞ!」
高見沢は、年甲斐もなく一人大騒ぎ。
誰も辿り着けそうにもないこんな謎めいた最上階に、高見沢はおもむろに降り立ったのである。
そこに出現したフロアーは、霞が掛かったようにピンボケ状態。
「こりゃ一体何ちゅう空間なんや、まるで洛陽の春霞の中へ迷い込んだようなもんや、しかし、どないしょ、恐くなって来たなあ、もう帰ろうかな、・・・、いや折角だし、ちょっと探検してみるか」と、恐る恐る歩き出した。
そして、進むにつれて空間全体がよりパープルな色調へと深みを増して行く。
高見沢は、その原因が何なのか、直ぐに理解出来た。
通路両側に灯籠が間断なく配置され、いくつもの蝋燭が灯されている。
そして、それらが見事に紫の光を放っているのである。
「遠景で見たあの色気な輝きの発光源は、ここにあったのか、遂に辿り着いたぞ」
今、世俗的な世界から解き放たれて、神懸り的なパープルの空間に身を置いている。
そんな気高き場に偶然にも侵入し、厳粛な気分に包まれている。
「おお、ここは神か魔王が宿る雲上の世界か」と、感ずるままにゆっくりと歩み続けた。
すると、面前に古めかしい門構えが現れたのである。
「何でこんなモダンな高層ビルの最上階に、古式豊かな門があるんや、えっひょっとしたら、ここは悩み多きサラリーマンの駆け込み寺なのか、それともセクハラから逃げて来る尼寺か?」と、適当な想像を巡らしている。
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