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第1章 人生未体験の巻
(1) 心身ズタズタのボロボロ
サラリーマン高見沢一郎は、今、駅のホームで呆然と突っ立ったまま、暮れなずむ都会の夕景をぼやっと眺めている。
徐々にではあるが、確実に深さを増して行く夕闇、そんな中へと心がどんどんと陥没して行く。
今日は、月例会議のために東京に出張で出掛けて来た。
もし、仕事の業績が、もっと上がっていたならば、こんなたまの東京出張もそれはそれはもっとポジティブな心の刺激になっていたはず。
不幸な事である。
誠に、心が暗い。
しかし、考えてみれば、どこの会社のサラリーマン達もみんな同じ境遇なのかも知れない。
日々目まぐるしく変化する現代ビジネス社会、その世界を生き抜くために、サラリーマン一人一人本当に頑張っている。
家族を放ったらかしての粉骨砕身。
しかし、何一つとして誉められる事もなく、リスペクト(尊敬)もされない。
二十一世紀のサラリーマン、何と意気阻喪(いきそそう)の毎日を送っている事か。
「世界競争に勝つ」、企業は文句の付けようのない高い目標を掲げ、その達成のためトップダウンを執行する。
高見沢も、会社のため、強いては自分のためにと馬車馬の如く働いて来た。
しかし、いつも目標が高過ぎるのか、未達成の結果しか出せない。
本日の月例会議、高見沢は久々の発言をした。
「企業として高い目標を掲げる、それは大変意義深い事だと思います、しかし、もうちょっと、目指す所を現実的で身の丈に合わせたものにし、段階的に進めて行ったらどうでしょうか、・・・、たまには我々実務担当者にも小さくても結構ですから、まずは成功体験が味わえるようにして頂き、モチベーションが上がるようにして頂いた方が良いかと思うのですが、・・・」
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