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(2) 光明
高見沢一郎、京都在住のそれはそれなりのお疲れサラリーマン。
満身創痍(まんしんそうい)ながら随分サラリーマン人生長くやって来た。
そんな彼が、今、この大都会の駅のホームに一人ぽつんと立っている。
その後ろ姿は、悲哀でもある。
この夏向けに折角スーツを新調したのに、「アンタ、もうちょっと皺も背筋もシャキッと伸ばしたら」と、声を掛けたくなる。
今、精神は、メッチャ傷だらけ。
思考は、パーフェクトにネガティブ。
思わず一人吐いてしまう言葉が実に弱々しい。
「ホンマ、俺、暗ーいで、・・・、もう少し晴々とした気分で毎日を暮らしてみたいよなあ」
言い換えれば、野っ原の野壺に完全に落ち込んでしまった状態。
されどである。
そんな高見沢を、今暮れなずむ都会の夕暮れが、柔らかくも優しく包み込んで行く。
そして、和まし癒してくれるのである。
ぽつりぽつりと点り出した街灯り、その谷間の向こうに見えるほのかな遠景。
そこから光の粒が放たれて来る。
淡い光達が、戯れ遊んでいるようでもある。
高見沢は、じっと目を凝らして、天空へと聳え立つ高層ビルを見る。
不確かな輪郭のせいなのか、その立ち姿が、艶(なまめ)かしくも美しい。
高見沢は、そんな視界情報を、破壊が進み潰れ掛けている感性でぎこちなく受け入れ始めた。
そして、右脳に入力し出しているのである。
徐々にではあるが、高見沢本来の生命力が、蘇って来た。
「まっえっか、・・・、その内に何か良い事、多分あるかもな」
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