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私がテレビで始めて谷沢響子を見たのは、彼女がラフマニノフ国際ピアノコンクールで一位に入賞した時に日本交響楽団と競演した記念演奏会のライブであった。
彼女はそこで『ラフマニノフ』の二番のコンチェルトを弾いた。当時彼女はまだ二十歳過ぎだった。
テレビというものは有難い。演奏会の臨場感は望むべくもないが、演奏中に見せる様々な表情や、妖精のように鍵盤の上を駆け巡る指の動きを色んな角度からアップで克明に見せてくれるのである。
勿論華麗なテクニックこそが彼女の本領なのだが、評判どおりの初々しい愛らしさと美貌に私は忽ち虜になってしまった。
彼女には勿論会ったことはない。それなのに、どういう訳か私はどこかで出会ったことがあるような気がして不思議でならなかったのである。
凛とした愛らしさとでもいえばいいのだろうか。可愛いといってもアイドル歌手のような甘ったるいだけの愛らしさとは違う何ものかが彼女には備わっていた。
ピアノに向かった彼女にはどこか近寄りがたい雰囲気が感じられ、それには『凛』という一文字が最も相応しいように思われた。
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