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「母が私を身ごもってから、両親は毎日仏壇の前で観音経をあげたそうです。何とか五体満足な子が生れますようにって」
「ご心配だったでしょうね。周りの人達の反対を押し切ってまで結婚されたんですもの、万一の事があれば『それ見たことか』といわれかねませんものね」
「父は特に不安だったんだと思います。自分が医者だっただけに放射能の怖さもある程度知っていましたし、それに地獄も見てしまったでしょう。仏様に縋るより仕方がなかったんだと思います」
「貴女がお生まれになった時はさぞお喜びになったでしょう」
「そりゃあもう。出産に立ち会った父は、私に異常がないことを確認すると母と抱き合って号泣したそうです」
「わかりますわ。普通の出産だって五体満足だと判ってやっと安心できるものですよ。まして貴女の場合は特別ですものねえ。そのときのお写真がこれですのね」
バックスクリーンに大きく映し出された写真を見て、私は思わず「あっ」と叫んだ。
生れたばかりの赤ん坊を抱いて夫と並んで立っているのは柳沼淑子ではないか。
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