一期一会

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柳沼淑子は私の小学校の同級生であった。 一年生の時、同じクラスで私が初代の級長、彼女が副級長だったのである。 二年生の春の学芸会で、私が出征兵士、彼女がそれを見送る女房の役に選ばれたことがあった。 日の丸の小旗を振りながら、舞台全員で『勝ってぇ来るぞと勇ましくぅ』と歌いながら歩いた記憶があった。 三年になると男女は別々の組になり、話す機会もなくなったが、彼女の美貌と愛らしさは男の子たちの憧れの的だったのである。 私とて例外ではなかった。今にして思えば子供の劇とはいえ夫婦の役を演じた私にとって、彼女は幼い初恋の相手だったといえるのかもしれない。 小学校(当時の国民学校)を卒業すると、私は呉市内の中学校へ進んだが、彼女が広島市内へ転居したらしいことは人づてに耳にしていた。 映し出された写真の女性は、小学生時代の柳沼淑子の面影を色濃く残しているように思われたのである。
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