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「いったぁ~!!」
とある少女の声がぐらぐら揺れる物置小屋のような場所で痛々しく響いた。
どうやら今まで心地よい夢の世界にいたようなのだが、突然起きた大きな揺れによって無理矢理起こされたらしい。
「人がいい夢……ってわけじゃないけど、滅多に見ない夢だったのにぃ……」
少女は正四方形の箱の中に置いてある、肥大化したリュックという名の相棒に自分が抱く悲しみを少しでも分かち合ってもらおうと抱き着いていた。
長い放浪のせいで生傷が絶えないが、それでも文句一つ言わない優秀な相棒だ。
だが、悲しみはすぐに怒りへと変わり、この“箱”を動かし運んでいる主に潤む橙色の眼光を向けた。
少女はその“箱”の側面に付けられた年季の入った引き戸を、外さんばかりの勢いで開け放った。
頭の後ろで結われた銀色の長髪が風にさらわれて尻尾のように揺らめく。
戸を開けて、まず目に飛び込んできたのは、土色をした刃こぼれを起こした刃のような岩場。そんな荒々しい景色が左から右へ高速で流れていく。
酔いそうになったので、とりあえず怒りの対象へ目を向けることにした。
この“箱”を引っ張っている、全身を漆黒を模した鱗に覆われ、走行時には使われない折り畳まれた翼を持った運送用の“竜”。
こいつが少女の眠りを妨げたのだ。
正確には、竜を操る使い手であるが、寝起きの少女にとって、そんなことはどうでもよかった。
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