2人が本棚に入れています
本棚に追加
「おいこら真っ黒ー!! もっと慎重に走れー!! 肉塊にすんぞー!!」
片腕を千切れんばかりに振り回し、険しい岩山を荷物の積まれた箱を引っ張りながら駆けてくれている竜へ暴言を吐き連ねた。
傍若無人たる発言を言える立場でない筈なのだが……。
「お嬢さん、あんまりクロを悪く言わないでおくれよ。こんな荒れた道じゃあ、どんなに立派な竜でも慎重になんて走れないに決まってるだろう……」
竜車の篭に背を預けて、黒竜の手綱を握っている男は困り果てていた。元来強気な男ではないらしく、眉を潜めた顔が妙にしっくりきている。
それでも、竜を手なずけているところ、この男もただの優男というわけではなさそうだ。
簡単に竜車の原理を説明すると、馬車と大した変わりはない。
ただし、馬車のように綱で制するには、あまりにも力が強すぎるために、竜の場合には鎖が使われている。さらに、竜の暴走を抑制するために《スフィア》と呼ばれる石を竜の体に埋め込み、感情の昂りを緩和しているのだ。
そのスフィアを埋め込むには、術師が扱う《呪い》が必要となる。
呪いというのは……。
ここで説明する必要も特にないので放っておかせてもらう。
最初のコメントを投稿しよう!