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自動ドアを潜り抜ければ、程よい冷気と、古書の独特な匂いが汗ばむわたしを包んだ。
返本カウンターで借りていた本を返し、わたしは館内案内板を見る。確か、古文で『枕草子』の宿題が出てたはず……もちろん、大好きな古文だからもう既に終わってるけど、ここまで来たんならもっとシッカリした資料でも探そうかな……と、考えたには考えたんだけど、目先の欲には適わない。
わたしは案内板から目を外し、新刊コーナーへと勇み足で進んだ。時期が悪いと目ぼしい本は皆貸し出し中になっちゃうから、要注意だったりする。
本棚1つ分しかない新刊コーナーには思いの外本が残っていて、表には出さなかったけど、わたしは内心狂喜乱舞していた。だって、日が悪いとガラガラなこの本棚が、今はほぼ隙間がないくらい埋まってる。しかも!
「新装版『風の又三郎』がある~!」
子供じみた趣味だと笑われて以来、読みたくとも手にしていなかった宮沢賢治の文集がズラリと並んでいて、思わず声を上げてしまった。場所が場所だけに慌てて口を押さえたけど、興奮は冷めない。
ウットリと、本棚に並ぶ背表紙を見つめた。
『よだかの星』に『どんぐりと山猫』……もちろん、『風の又三郎』と『銀河鉄道の夜』も捨てがたい。
あぁ、どれから読もう。
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