本当は今でも好きだから

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暦の上ではもう秋の始まりだなんて今朝の天気予報では言ってたが。 照りつける太陽は容赦なく俺を襲う。 「社会人に夏休みなんてないんです!!」 この暑い最中、そう言って怒り出した事務員から逃げ出した秋山は働かない頭を巡らせる。 何で先週海行ってた事がバレてるんだ? 誰にも言わずにこっそりと出掛けた筈… あ、しまった。 道中、偶然出くわした城戸ちゃんにうっかり喋ったんだった。 ハァ~ッ…  盛大な溜息は宙に消え、秋山は開いた口をそのままに目を見開く。 「詩織…ちゃん?」 そうであって欲しいような、人違いのほうが良いような、微妙な気持ちは次の瞬間彼女が振り向くと同時に恥ずかしさに変わる。 「何か?」 「あ……いや、ごめんごめん、人違い」 詩織には似ても似つかないその人に頭を下げると、秋山はビルの屋上へと向かった。 暫く、人込みは避けよう。 どうしたって探してしまう。 こんな所に居るはずがないのに。 仮にまた逢えたとしても、君は俺の事なんて忘れてるかもしれないのに。 「…好きだって…言ってくれたのになぁ…」 ポツリと呟く独り言。 海で出逢った詩織を口説いたのは、昔の彼女に似ていたから。 夏の浜辺で始まる恋は、一夜限りがお決まりで。 ムード作りに二人で線香花火なんてしてみたりした。 「恋わずらいなんて歳じゃないのに」 わざと口に出して自嘲する。 目を閉じれば鮮明に、詩織の姿が浮かんで……そして思い出す。 「そっか……そうだった」 抱き締めれば、その細い腕で応えてくれた キスをすれば、頬を染めてはにかんで 熱を打ちつければ、可愛い声で鳴いた君は 「…一度も俺の名前、読んでくれなかったんだよね…」 気持ちを手に入れる前に君の体を知り尽くしてしまったから。 俺の気持ちは伝える事も叶わないまま、夏の遊びで終わってしまったんだ。 ポケットの中には、あの日余った線香花火。 捨てられないこの恋心は、火玉が落ちれば消えてくれるだろうか。 暗くなるのを待たずに、秋山は線香花火に火を点けた。 線香花火/風味堂
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