1人が本棚に入れています
本棚に追加
普通の人やそうでない人が行き交うこの街で、擦れ違い様に後者とぶつかった。
あぁ…もう、面倒臭い。
ぶつかっただけで絡んでくるような器の小さい男は外を歩かないで欲しい、なんて思った時。
詩織の視界に入ったその男は、流れる様な所作で輩達を地面に屈させた。
「あ、ありがとう…ございます」
「怪我は?」
一目惚れなんてまっぴらだと友人に公言していたのに……前言撤回。
「あのっ!良かったら、お礼させて下さいっ!」
「人助けが俺の仕事だし、気にしないでいーよ」
そう言う谷村を無理矢理に、お気に入りのBARへと連れて行く。
ちょっと困った顔をしていた彼も、アルコールが入るとご機嫌で。
「詩織、だっけ?」
「はい?………っ!?」
振り向き様のキスは、瞬きをする間もない程短かった。
「連絡先教えてよ、次は俺が誘うから」
「刑事さんって忙しくないんですか?」
「女のコと食事行くくらいは時間あるって」
誰にでもそうやって笑いかける?
そうかも知れない…けど。
ここから始まることを願って、バッグから携帯を取り出した。
近付きたい。
もっと知りたい。
今日出逢ったばかりの君だけど。
夏だから、こんな恋も有りなんじゃないかって思う。
「歩ける?ほら」
大して酔ってなんかないけど、彼の優しさに甘えて手を取った。
意外と大きかった谷村の掌から、詩織の左手へ移る熱。
さっきのキスの意味は?
握った手を離さない理由は?
手を繋ぐだけじゃ足りない。
けど、ギュッてして…なんて言える訳もなくて。
「本当に家まで送んなくて大丈夫か?」
「すぐそこですから。それより谷村さんも気をつけて下さいね」
「そりゃどーも。…今日、絡まれてたのは何処の誰だっけ?」
顔を見合わせて笑うと、次は花火を見に行こうと約束をしてその日は別れた。
ひと夏の恋なら約束なんてしないだろうか、今後の展開に胸を膨らませていると鳴り響いた携帯電話。
「…もしもし?」
『俺。家着くまで電話いい?』
「もちろんっ…!」
『なんか、詩織ともっと話してたくて』
初めて逢った今日
完全に恋に落ちた私
次に逢うその時は
君好みの私で逢いたい
夏恋/シド
最初のコメントを投稿しよう!