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今年初めての花火大会。
夜空に咲く大輪の華を、吸い込まれる様に見入る二人。
「綺麗……」
詩織の呟きは花火の打ち上がる音に掻き消された。
「…初めてです」
「え?」
峯の突然の告白。
夜空を見上げていた詩織は、彼の横顔に視線を移した。
「子供の頃、孤児院から花火が打ち上がる音だけ聴いてたんですよ」
風が、彼の前髪を揺らす。
今日が生まれて初めての花火大会だと、寂しげに笑う峯。
彼の瞳越しに、闇を彩る花火の輝きを見た。
「詩織…?」
峯の手が詩織の頬にそっと触れ、伝う雫を指で拭う。
何故泣くのかなんて、彼は聞かない。
いつもより優しげな瞳で
いつもより寂しげな瞳で
私を見つめる
こんな表情をするあなたを、初めて見た――
「此処に来るまでに失ったものが多すぎて、一々覚えてなんかいませんが…」
人の波に飲まれそうになった詩織を、峯が抱き寄せた。
「不思議と…今なら笑って話せる事も多いんです」
あなたが居るから――
浴衣越しに伝わる体温が混ざり合う。
花火の音よりも、互いの心音が胸に響いて。
「愛しています」
今日のこの想いは褪せる事なく
明日の今頃も
その次の日も
来年の今日も
ずっと、あなたを愛しています――
最後の花火の後、人混みが現実へと引き戻す。
帰りましょう、と詩織の手を引く峯の表情は穏やかで。
繋がれた手を見つめた詩織が漸く気付いた事。
昔は、はぐれるのが怖くてしっかりと手を握っていた。
あの頃と違うのは
はぐれてしまわぬように手を繋ぐんじゃなくて。
愛するあなたが隣に居るから
あなたと一緒に歩きたいから
この気持ちを伝えたいから
「峯さん」
「ん…?」
「私も今日が初めてでした」
花火が綺麗な理由を知った
闇に輝くその刹那
二度と戻らないから
大切にしたい
「今日見た花火は、一生忘れないですよ」
優しい風が二人の頬を通り抜けた。
theme of a-nation'03/浜崎 あゆみ
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