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ようやく目を覚ました彼女と二人、声がした方を見ると。
純白の髪に、長く豊かな白い髭。
鋭い眼光に、深い叡智と一種の狡猾さを兼ね備えたような風貌の老人。
僕らが神と聞いてイメージするような、威厳に溢れた神様だ。
「ええと。
これが現実だとしたら、僕らは一体どうなったのでしょう?」
「死んだ。
折口雅人。
重度の熱傷により死亡。
芹沢巻菜。
下腹部からの出血多量により死亡だ。」
……………やっぱり助からなかったか。
あの時とった行動に悔いは無いが、やっぱり残念だ。
巻菜さんも、何だか悄然としている。
「ええと。
ではここは?」
「死した霊の受付場所じゃ。
ここより、前世に冒した罪業により天国行きか地獄行きが決まる。」
なっ…………………!
ていうか。
本当に天国や地獄なんてあったのか。
「ふむ。
君ら二人は、前世に取り立てて罪も冒しておらん。
めでたく天国行きだ。
さあ、この書類にサインしよう。」
天国行きと言われて喜んだのも束の間。
渡された変な書類に、僕は疑問を抱いた。
巻菜さんも、訝しげに書類を読んでいる。
「あの。
この『私折口雅人は、自分の意思で天国行きを希望します。
輪廻の輪に戻る事は望みません』
って言う一節は何ですか?」
ギクリ!
そんな擬音が聞こえてくるような感じに神様は一旦硬直し。
「ま、まあ何でもない。
決まり文句みたいなもんじゃ。
ささ、早くサインを。」
「ちょっと待って下さい。
何か怪しいです。」
「……………………チッ!
今時珍しい頑固なガキじゃわい。
そんな風では現代社会を生きていけんぞ?」
「あいにく。
僕の母の遺言に、『よく分からない書類にはサインするな』って言うのがありましてね。」
嘘ですが。
そう言って、睨み合っていると。
扉が荒々しく蹴破られる音がして。
「こぉんの馬鹿者がー!」
と叫びながら、美人な若いお姉さんが走ってきて。
神様の頭にドロップキックをかました。
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