Prologue ver.雅人

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一年が春と秋だけなら良いのに。 ふとそう思った。 昨日自転車で転倒して足を挫いた僕は一人、バスを待っていて。 近所の量販店で買った化繊のコートじゃ、到底しのげない寒さに身を震わせていた。 大体、なんで人間は冬眠出来ないんだ。 手袋をしていないせいで真っ赤に腫れている手を見ながらそう思う。 必死に手を擦り、ホッカイロであっためるが何とも辛い。 隣に座っている小学生くらいの女の子が、母親らしきヒトにかじかんだ手を握ってもらっているのを見て。 子供の無垢な笑顔と、優しそうな母親の柔らかい笑みに、思わず頬が緩んだ。 そうこうしているうちにバスが到着し。 僕はポケットから電子マネーを取り出して乗り込んだ。 近くにある女子高の制服を着た女の子に肩がぶつかり、軽く頭を下げながら座席につく。 今チラッと目が合ったが、ちょっと可愛い。 バスの中は暖房がきいていて、疲れ切っていた僕は直ぐに眠りにおちた。 ガタンゴトンと揺れる車輪の音に目を覚ますと。 バスは山沿いの急なカーブが多い道を進んでいた。 チラリと安物の腕時計に目をやると、まだ9時過ぎだった。 もう少し眠ろう。 そう思って目を閉じると。 ガクン、とあまりにも不吉な音がして。 思わず目を開くと、一瞬でセカイの上下が入れ替わった。 え、嘘。 このバス、落ちている? そんな馬鹿な、という思いで僕の顔には間の抜けた笑みが浮かぶが。 それはどうしようもない現実で、ガードレールを突き破ったバスは山の急斜面を転がり落ちていた。
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