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体が熱い。
そう思って目を開くと、着ていた化繊のコートが燃えていた。
一瞬パニックになりかけるが、何とか落ち着きを取り戻してコートを脱ぎ捨てた。
そして、自分が五体満足であることに気がついた。
「…………はは。」
思わず寝っ転がって笑ってしまう。
今まで“運”とは無縁だった僕の人生だが。
横転したバスの中で、僕は奇跡的に無傷だった。
と、こうしてはいられない。
バスの乗客の中で無傷なのは僕だけらしく。
つまり。
僕がこのバスの乗客を助けなきゃいけないってことだ。
重い体を引きずって立ち上がり、もう一度状況を確認する。
まるで人気の無い谷底に、横転したバスがひとつ。
ざっと見て、今動けるのは僕だけか。
どう見ても死んでいるヒトは黙祷を捧げて。
息があるヒトだけを、肩に背負ってバスから運び出した。
バスには火がついている。
ガソリンに引火したら爆発しちゃうな。
そう思うと疲れ果てた体がまだ動くから不思議だ。
七人目。
ついさっき目が合った、可愛い女子高生。
だけど。
腹部にガラスの大きな破片が刺さっていて、苦しそうに喘いでいた。
唇を噛んで、少し思案する。
下手に動かしたらヤバイかも。
けど。
このままじゃこの娘は死んでしまう。
…………自分の服を裂いて布切れを作り、傷口にあててから一気にガラス片を引き抜いた。
涙を流して暴れ回る彼女を押さえつけて、簡易的に止血をしてからバスから運び出した。
三十分後。
何とか生きているヒトを全員運び出して、荒い息を整えながら地面に横たわると。
ようやく乗客が目を覚ましはじめた。
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