106人が本棚に入れています
本棚に追加
雅人の視点。
「…………………………あれ?」
目が覚めると、だだっ広い真っ白な空間に僕はいた。
バスに乗り込んだ時と同じ服装で。
おかしい。
あの時僕は、まず間違いなくバスの爆発に巻き込まれた筈だ。
あそこまでリアルな痛みを、夢だったでは片付けられない。
だがあれが現実だったとすると、今の僕は何だろう。
体には傷一つ無いし、燃えてしまったはずの化繊のコートもちゃんと着ている。
ふと隣を見ると、バスで出会った可愛い女子高生が安らかそうな寝顔で居眠りしていた。
この娘も、確かにガラスの破片が脇腹に突き刺さっていたはずなのに。
他に人影は見えない。
安らかな眠りを覚ますのに一抹の罪悪感を覚えたが、心を鬼にして肩を叩いて起こそうとする。
「もしもし、起きて下さい。」
目の前にいる人に「もしもし」と言うのが正しいのかは分からないけど、他に何と言うべきかも分からないし。
「う~ん、後五分~」
と、明らかに寝ぼけた口調で言われた。
「いやいや、そんな事言っている場合じゃないから。
さあ、起きて。」
「うるさいですね。
この私が寝ると決めた以上、槍がふってきても起きませんよ!」
……………宣言された。
「起きないと朝御飯抜きですよ!」
と、僕にも変なテンションが乗り移って僕はそう叫んだ。
「それは勘弁!」
と言って、彼女は起きた。
「……………………………。
何だ夢か。」
そう言うなり、またコテンと眠りに落ちてしまった。
「………………………って!
夢じゃないから起きて下さーい!」
必死に呼びかける僕。
「またまた~、この私相手にそんな嘘は通用しませんよ!
こんなのが現実な訳ないでしょう。」
「否。
これは紛うことなく現実だ。」
と、厳かな老人の声がした。
最初のコメントを投稿しよう!