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不意に、俺は竜の気配に気付いた。背筋が震えるような、或いは――足がすくむような、そんな感覚。皮肉にもこんな環境だからこそ鮮明に感じられる。
竜に不意打ちは無意味だ。矢の数本で致命傷は与えられないし、まともな剣や槍では、下手な鉄よりも堅牢な鱗に弾かれてしまう。
それに、人間というのは元々竜に歯向かうようには出来ていない。だから、まず必要なのは身体の奥底から湧いてくるような恐怖心を捩じ伏せることだ。
だから、俺は腹の底から吼えた。
「悪辣な竜め! そこにいるのは分かっているぞ!」
直ぐに、洞窟の奥から何かが動いたような気配が伝わってきた。
不意に悪寒に襲われ、俺はその場を飛び退いた。
その直後、丁度突き出すようになっていた松明の火の先を、黒煙の奔流のようなものが掠めていった。
恐らく、竜のブレスであろうが、正体が掴めない。炎や冷気、雷を模したものならば見たことがあるが、そのどれとも様子が違った。
そして、天井が崩れ落ちた。
最初は細かな土くれがまばらに落ちてくるだけだったが、次第にそれらは勢いを増し、終には万の騎兵の駆ける様な轟音と共に、土砂降りの雨の様に降り注いできたのだ。
全く突然のことだったので、俺は特に何が出来る訳でもなく、その場で土煙に耐えた。ただ、これは自然の落盤ではないと、それだけ考えていた。
崩落が終り、土煙が落ち着きを見せた後、俺は崩落が存外小規模であったことと、どうも感覚程は地下に潜っていなかったことを知った。洞窟の中に積もった土砂の上から、日の光が見えたのだ。
松明の火は消えてしまっていた。
どうも隙間は、人が通れる程度の大きさがあるらしい。鬼が出るか蛇が出るか、俺は松明を投げ棄て、そこから外へ出ることにした。
足場の不確かな土砂の山を登り詰め、遂に洞窟の外へ出た。そこは森の中で、地面が楕円状に陥没し、まるで即興の広場の様だった。
存外、崩落に巻き込まれた樹木は少ないらしく、そこに足場を失って倒れた樹は恐ろしく少なかった。特に、中央部にはほとんど無い。
そして、そこには一匹の竜がいた。
四足で歩行し、翼を持つ翼竜だ。洞窟に潜んでいたのだから翼を持たない類の地竜だと思っていたが、違っていた。
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