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 ふと辺りを見渡すと、既にあの竜の姿は消えていた。あの巨体でどこにどう消えたのかは俺の知るところではないが、とにかく消えていた。  俺は手早く男の亡骸を葬り、彼の槍を墓標とした。誰が訪ねるわけでもなかろうが、一介の戦士の墓標としては様になっている。  日は既に傾き、黄昏時。斜陽の光が森の木々の合間を縫って、男の墓を茜色に染めていた。  そこで、俺は気付いた。ここはあの大樹海なのだ。街道が整備される前はなおのこと、整備後ですら、多くの人間が消息を断つ迷いの森。ノーアトゥーンまでどうやって帰ればいいのか。分かっているのはおよその方角だけだ。  俺は歯ぎしりした。  こんなことで時間を浪費している場合ではない。一刻でも早く戻らなければならないのだ。  だが、実際問題、直に夜が訪れ、方角もろくに確認出来なくなる。街道を行くのならばまだしも、木々の中をわけいって進むとなれば、恐らく俺は大樹海の魔性の虜となって、二度とは出られないだろう。  腹立ち紛れに一本の大樹を殴り付け、俺は野営の準備に取り掛かった。今出来るのは、精々良く眠って体力を快復し、夜明けと共に始める行程に備えることだけだ。
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