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 私は一切を剥奪され、鞭打たれていた。  彼らはかつて私が焼き払った者達だった。その多くは彼女のように酷い火傷を負うか、半身を失うか、或いは全身が炭のようになって輪郭すら朧な者達もいた。  彼らは全て、憎悪と苦痛に目を濁らせていた。私はそれを望んだのだから、受け入れる責があった。  彼らは長い列を為して順繰りに私を鞭打っていた。鞭の一振り毎に、私の身体は削がれていった。  私の身体は焼け落ちた家の柱のようになったが、彼らの長い列は半分も進んでいないようだった。  私には何も無くなってしまった。手も足も、目も耳も口も鼻も、血の一滴から髪の一本、肉の一摘まみ、肌の一切れすらも、私のものではなかった。私に残されたのは、私が私であるという思い、それだけだった。それでも彼らは私を打ち続けた。  永い時が過ぎた。劫とも思える間に、私はあらゆる責め苦が与えられた。彼らにしたように灼熱の炎で灰にされ、或いは極寒に身体の芯までも凍てつき、鈍の鋸に肉の一片までも刻まれ、猛毒に臓腑を焼かれ、鳥獣に喰われ、腐り、錬金術の秘薬に溶かされ、伝説の如く青銅の牡牛で焼かれた。  その後は虚無だった。久遠とも思える間、私は絶対の孤独に置かれた。何者も私に触れず、語りかけず、それは安息でもあり、同時に耐え難い苦痛でもあった。  だが、来訪者が唐突に現れた。黒い馬と、それに跨がる黒い騎士。夜魔の眷族。 「……ああ、何という御姿か。このようなことならば、我々は主命に背き命を失ってでも、貴女様を引き留めるべきでございました」  それは違うのだと、もはやどこにも存在しない口で、私は答えた。これは私自ら望んだのだと。 「しかし、我々には貴女様が何より大切なのでございます。例え夜魔の血は半ばしか引いておらずとも、貴女様は我々が敬愛する女王陛下の、ただ一人の御息女なのでございます」  私は微笑み、繰り返した。これは私自ら望んだのだと。 「それでも……ああ、せめて御身に今より災厄が及びませぬよう、御祈り申し上げます。ロキは貴女様を反逆者と断じました。また、ヘルを言いくるめ、彼の者の地を経てヒトの地を目指そうとしてございます。既に少なくない斥候を送り込んでいることでしょう……ああ、御身が苦境に際し、道があるも御身が下に馳せ参じられぬ不忠を御許し下さい」
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