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 人の近付く気配に、俺は夢想から引き離された。剣を手繰り寄せ、辺りを見回すが、姿は見えない。もっとも、直に夜が白み始める刻限、森の中に潜む者の姿など、見えようはずも無いのだが。 「何用か」  聞くだけ無駄か。どうせ、狙いは彼女だ。この半年、飽きるほど繰り返されてきた。  そう、彼女は命を狙われている。それだけのことをしたのだから、仕方がない。だからと言って大人しく渡すわけもない。  この半年、飽きるほど繰り返されてきたことだ。俺は、彼女と共に生きることを誓ったのだ。  空を切る音を、俺は剣の鞘で叩き落とした。飛刀の類いだが、かなり小さい。掌に収まる程度の大きさしかない。  生憎、俺は飛び道具を持ち歩いていない。彼女の側を離れられない以上は一方的に攻撃されることになるが、この程度ならば問題無い。叩き落とせる。  むしろ問題は、相手を取り逃す公算が大きいことか。  そして、奇妙な静寂が辺りに満ちた。これが本来のあるべき姿と言えばそれまでなのだが、これほど緊張を強いる静寂も珍しいだろう。  何せ、向こうがこちらのことを知らないとは考えられない。この半年のツケだ。俺と彼女は少々有名になりすぎた。  となるとこの静寂の意味するところは、次の一手のための布石。油断さえしなければ問題無かろうが、その思いも油断を招くというのが、煩わしい。  そして、飛刀。鞘で叩き落とし、そこから剣を抜き、背後の敵の腕を切り落とした。返す刃で喉を突き、振り返る。そこにもう一人。突き出された剣をかわして、鳩尾に剣を突き刺した。  賊ごときが彼女の眠りを妨げるなど、許せるはずも無い。だからこそ喉を突き、横隔膜を破った。  そして、それが出来たということは連中が二流以下であることの証拠だ。一流の戦士二人が相手ならば、いくら俺でも、負けはせずともそれだけの余裕は無い。  近付いてきた時とは対照的に、連中の生き残りは騒々しく散っていった。  気が付けば、空は既に白み始めていた。  襲撃者の姿が確認出来た。どうやらどこぞの国の暗殺者らしいが、おそらく身元を示す物は身に付けてはいないだろう。彼女の――ブリュンヒルドの報復を恐れているのだから。  かつて一国を灼き払った魔女、ブリュンヒルド。俺が共に生きると誓った人。かつてと同様、今もまた世界を震撼させ、俺の足下で無防備な寝顔を晒している。
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