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都
結論から言えば、俺は少しばかり遅すぎたようだった。街の中では、傷付いた傭兵が幾人も道端に倒れていた。
まだ息のある者も多いが、この分ではまともな助けも見込めないだろう。五体満足に動いているのは俺達ぐらいなものだし、生憎、俺達にこいつらを助けるだけの技術も義理も情も無い。
助けられる連中は、既に倒れているか逃げ出したかだろう。半年前もそうだった。残るのは適当な不埒者ばかりだ。良い奴は皆、死んでいく。
俺は宿を探した。扉を閉ざして息を潜めていた連中が残っているとふんだからだ。そもそも、逃げ出しても当てが無ければそうするより他、無い。
ようやく宿を見つけた頃には、既に日が暮れようとしていた。部屋はけして良いものではなかったが、文句は言えない。
嵌め殺しの窓から、通りの様子が見えた。どこからか現れた人影が、倒れた傭兵達に群がっている。その多くは追い剥ぎだ。さすがに戦慣れした傭兵達も、満身創痍の体ではどうにもならないと見える。
中には、少数だが、傭兵達に治療を施している一団もいる。情けは人の為ならず、といったところだろうか。
彼らの善意に真意はあるのだろうか? これでも俺は人の両面を見てきたつもりだ。割り切ることは出来ない。
俺は翌日、部屋に彼女を残して、食料と消耗品の調達に出ることにした。
その途中。俺は見覚えのある格好の連中に囲まれた。この辺りの王に仕える近衛だ。見たところ、さして腕の立つ様子ではない。どこぞの貴族の子弟なのだろう。
「何用か」
「王から貴方に招集状が出ています。我々に従って頂けますね?」
隊長らしい青年の口調は、慇懃無礼そのものだった。こちらの返答を聞くつもりは無いらしい。
こいつらは何様のつもりなのか。俺のような根無しに、王の威光とやらが届くとでも思っているのか。虎の威を借るしかない分際で。
とは言え、向こうは俺を知っている上で呼びつけている。騒ぎも起こしたくない。無下に追い返すわけにもいくまい。
俺は従うことにした。
しかし妙なのは、なぜこの街に王の近衛がいるのかだ。それは王が近々この街を訪れるか、既に訪れているのか、或いはいたく関心を抱いていることを意味する。
ここは大きな街であるとは言え、所詮は大樹海の内にある辺境。静養娯楽の類いならば、他にもっと適した街も場所もあるのだが。
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