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 気付くと、私は冷たい石の床に横たえられていた。暗くて、天井が見えない。横には鉄格子が見えて、そこから僅かな灯りが感じられる。空気は冷えて、湿っている。  見つかってしまったのだろうか。シグルズはどこにいるのだろう。  夢で見たのは不思議な光景だった。何も知らない男達が、私を、私を敵とする女の下へ運ぶ。しかし、彼女は私が私だと知らない。  夢と現はあざなえる縄のようなもの。いずれ、彼女は私の前に現れるだろう。その時、私が私だと知れたら、一体彼女は私をどうしてしまうのだろう。  私は今、恐れているのだろうか。それとも怯えているのだろうか。シグルズという庇護者のいない今、私は限りなく無力だ。赤子の様なヤドリギにさえ、簡単に殺されてしまえる程に。  ああ、それにしてもなんて眠いのだろう。ビフレストを閉ざして以来、私はどんどん夢に引きずり込まれている。まだ起きていたいのに。共に過ごしたい人と、見届けたい物が、まだあるというのに。  これも、私がしたことに対する報いなのだろうか。  不意に、影が射した。誰か来たらしい。彼女だろうか。足音は聞こえなかった。また意識が希薄になっている。 「包帯を替えに参りました」  女の声だ。  錠を外す音がして、彼女が入ってくる。暗がりでよく分からないが、長袖のローブを来ていて、顔をベールで隠しているらしい。  こんなところに使わされるにしては、大した格好だ。 「包帯を置いておいて下さい。自分でやります」  私はそう言って、身を起こそうとした。  しかし、出来なかった。身体に力が入らなかった。それに、ふとした拍子に意識が消えてしまいそうになる。夢に引きずり込まれてしまいそうになる。  何ということだろう。私はここまで弱っていたのだ。これでは赤子も同然ではないか。 「……私は、貴女の包帯を替えるよう命じられたのです」  声音が微かに変わった。同情、憐れみ、蔑み、そんなものが混じった風に。  夜の女王の娘はここまで落ちたのだ。かつては蹂躙し尽くした者達の同胞から憐れまれる程に。 「お願いです」  時が経つほどに意識が薄まっていくのが分かる。最早、いつ夢に引きずり込まれてもおかしくない。 「包帯を置いて、出ていって下さい……見られたくないのです」  それだけ言うのがやっとだった。  私の意識は夢の内へと引きずり込まれ、落ちていった。
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