『その瞳は、何を映し出す…』

3/28
前へ
/35ページ
次へ
気が付くと、既に電車は終着駅…桂木町駅に到着し、扉は開閉されていた。 静まり返ったプラットホーム、扉は開閉したまま停車する電車。 「…誰も…いないな…」 静まり返ったプラットホームに、僅かに響くイヤホンから漏れる音楽。 草薙は両手でゆっくりと両耳のイヤホンを外し体を覗かせ、ゆっくりと電車から降りた。 「1時5分…か」 薄く青白に光るデジタル表記された腕時計の時刻を見ながら言った。 同じ電車に乗っていた乗客の姿は疎か…駅員の姿すら見えない、まったくの無人。 まるで世界から自分以外の人間が居なくなってしまったように、靡く風の音だけが静かに聞こえ、電光掲示板はピカッピカッと点滅を繰り返し、辺りは静寂だけが続いていた。 (…始まるよ…) 頭に響く様に聞こえる不思議な声。そして、草薙の背後に佇む一人の少年。 「君は…」 少年は色白で、その無表情は生を思わせない位に、まるで人形のように無機質であった。 歩み寄る少年はゆっくりと右手を差し出して草薙の手に触れて、小さく囁いた。 (さぁ…時間だ) ピキッ…キィ-ン。 その刹那、激しい頭痛と耳鳴りは草薙を襲う。 草薙は両手で痛む頭を押さえながら、その場にふさぎ込んだ。 薄れ行く意識の中で、草薙は少年を見上げた。 微かに口元に笑みを浮かべる少年の表情は不気味で、どこか異質さを感じさせた。 「…うっ」 そして、意識は暗い闇の底へと深く沈んで行く。 「本日は、御乗車いただき…ありがとうございます、まもなく…終点、桂木町…」 草薙は、ハッと目覚めると…いつの間にか座席に座り込んで寝てしまっていた。 草薙は辺りを見渡し、自分の手元を見た。強く握り絞めていたのか、両の手は汗で濡れていた。 夢を見た気がするが…何も思いだせなかった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加