『その瞳は、何を映し出す…』

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八神市、桂木町…桂木町駅。 「終点、桂木町…桂木町…本日は御乗車ありがとうございました…この電車は…」 「はぁ…」 扉が開き、乗客は降りはじめ…草薙は少し溜め息を吐きながら、ゆっくりと立ち上がり網棚の上に置いたスポーツバックを背負い、電車を降りた。 桂木町駅は、改札口の入り口と出口を含めた4機のみの運営で、人の混雑で賑わう都会とはうって変わって、どこかの田舎町とも思わせる位に辺りは静かで、何だか…寂しく思えた。 涼しい春の夜風が心地良く桜の花が舞い散り、久しぶりの桂木町はどこか昔に見た、記憶にある桂木町とは微妙に違っていた。 「…当たり前か…」 夜風に打たれる草薙はどこか遠くを見ながら一人呟き、改札口を出た。 入り口を出てた先にある駐車場から、もの凄い睨みを向けて腕を組む仁王立ちの背広姿の男が一人立って居た。 「宮川 厚司」叔父さんだ、分かりやすい。 「遅いな!!お前、今何時だと思ってんだよ」 怒鳴りながら、幕下て吸った煙草を地面に捨てた。 相当ここで待ったようだ、足元にいくつもの煙草の吸い殻が散乱している。 遅れる事はメールで説明しているはずだが、しかし怒りに顔を赤くして苛立ちを見せている宮川。 まるで…蛸のようだ。 「…すいません」 草薙は鼻で笑いながら、無表情で言った。 「遅くなるならちゃんと連絡を入れろ!何時間待ったと思うんだ」 「事前にメールを送ったじゃないですか、読んでないんですか?」 「めっ…メール??」 宮川は慌ててポケットに入ったケータイを手に取りケータイ画面を確認する。 (新着メール・一通) ケータイの着信ランプは点滅したまま、メールは未開封のままであった。 「あっ?!…」 しばらく沈黙する二人。 草薙の冷たい視線が宮川を直視する。 「メールじゃなくて、電話しろ!!」 おいおい…。 …そういえば、叔父は昔から機械に凄く弱かった気がする。 このご時世に、しかもその年齢でメールもろくに使えないのは、何ともまあ…アナログな人間である。 「叔父さん、もう遅いですし…さっさと行きましょう」 草薙はあえて突っ込むのも面倒なので、半ば強引に会話を絶ち、車の助手席に座った。
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