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少年は自由の利きにくい体を起こし、
一抹の不安と共に重たい足取りで自室を後にした。
頭痛に堪えながら、壁づたいにゆっくりと歩いた。
目の前が歪むように頭がクラクラする。
恐ろしく不安な感情と、押し寄せる恐怖を押し殺す様に下唇を噛み、震える手を抑えてグッと堪えた。
記憶を手繰り寄せても、何も思い出せなかった、ただ今は家族の無事を祈りながら、変わり果てた自分の家の中を、無我夢中で探した。
リビングルームに足を踏み入れ、少年は必死に声を上げた。
「父さーんッ!!母さーんッ!!早苗ーッ!!」
荒れ狂う燃え盛る炎の轟音を前に、
その声は虚しくも掻き消されてしまう。
家具は崩れ落ち、家の至る所でガラスの割れる音が響き、昨日までは何ら変わる事のない当たり前の日常が存在していたが、最早見る影すら無くなったリビングルームは、忘却の闇に葬られ、ただ焼き尽くすという無慈悲な業火の如く、その紅蓮の炎は少年の瞳に、ゆらゆらと揺れながら悲しく写る。
少年は右手の袖で口を塞ぐも、立ち込める煙りは少年を苦しめ、咳が止まらない。
「早苗ーッ!!」
少年は…妹の部屋の前に佇み、
閉じられた扉を開けた刹那。
それは地響きにも似た重低音を奏でながら、
その激しい轟音と共に妹の部屋から大量の爆炎が舞い上がり、バックドラフトが発生する。
同時に、家中の窓ガラスはけたましい破砕音を響かせながら四方に飛び散った。
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